十代目の悩みは俺の悩み
幸せさがし
ぽかぽかと暖かい春の陽気
優しく流れていく風に髪の毛がなびいて
学校へと続いていく道を歩く足取りも軽く
平凡で退屈な日常に幸せなんてものを感じてしまう
そうして十代目をお迎えにあがるのだ
「おはようございます十代目!」
「あ。おはよー。」
「???」
何かが違っていた
凡人には分かるまい
しかし俺は将来十代目の右腕となる男
十代目の微妙な心情も見逃さない
どっかの野球馬鹿とは格が違う
「どうかしたんですか十代目何か悩みでもあるんですか俺に話してください!」
「え。何で突然??」
「そうだよなツナ今日なんか元気ないぜーどした?」
いつの間にか十代目の後ろからひょっこりと現れた山本が勝手に話に入ってきてなんかむかついたから鋭く睨んでやった(でも気付かれなかった。果たす!)
「べっ別になんでもないよー」
十代目はそう言って困ったように笑う
あぁやっぱり十代目は御気を使ってらっしゃるだけで何か重大な悩みを抱えているんだ
隣で野球馬鹿が「そっか?ならいいけど」とか言っていたがよくねぇ!
こんなに晴れやかな日差しの中
道端にはたくさんの花が咲いてしあわせな陽だまりを作っているのに
一番幸せであって欲しいあの人の心だけ影ができているなんて
そんなのはおかしな話だと思う
この俺がなんとしても十代目のお心を晴らしてやるんだ
なぜかって?
それはこの俺が十代目の右腕となる男だからだ!
そうやって朝一番に今日の誓いを立て
十代目の一挙一動に目を光らせながら学校までの道を歩いた
放課後 結局十代目が何に悩んでいるか突き止めることができないままに帰り道を歩いていた
悩み事はなんだとしつこく聞くほど俺もデリカシーのない男ではない
だから3回くらい聞いて諦めた(3回くらいなら問題ないはずだ!)(たぶん)
相変わらず穏やかなひだまりの中を
一人歩きながら考えてみる
(十代目は用事があるからと先に帰ってしまわれた)
今日一日の十代目の行動を思い出してみても全く見当が付かない
ただ頬杖をついてときどき顔をしかめる姿からは絶対に何かあるとしか考えられないのだ
しかしその悩みが何かわからないままには何もできない
そんな自分に腹が立ってしょうがなかった
「がはははー!このタンポポはランボさんのだもんね!お前なんかにやらないんだもんね!」
更に腹が立つ声が聞こえた
眉間に深いしわを刻みながら声の聞こえたほうに目を向けると
予想通り
あのくそうぜぇアホ牛とアホ女 弁髪のガキが草むらの中で騒いでやがった
「はひー?あ。獄寺さーんこっちですよ〜!」
こっちって何だアホ女行かねぇぞ
あいつらに絡まれて面倒なことになる前にさっさと帰ろう それがいい
目を合わせないように遠くの空を見上げながら
ちょっと早足で歩き出す
だが予想に反して歩みだした足はずっしりと重かった
なんだ いや予想は大体付くが
「捕まえたもんねー!今日からお前ランボさんのペット!ペットは何でも言うこと聞くんだよ!」
早く帰りたい気持ちに反してその場を離れようとしない左足には
びったりとアホ牛が引っ付いていて
振り払おうと足を振り回してもよけいに強くしがみついてくるもんだから
アホ牛の顔やら服やらにぐちゃぐちゃになってこびりついている泥が俺のズボンを少しずつ汚していった
(最低だ)
「実は今ランボちゃんとイーピンちゃんと一緒に幸せの四葉のクローバー探してたんですよ〜。獄寺さんも一緒にどうですか?」
「あ゛あぁっっ?!」
馬鹿か
なんで俺が…
いつのまにか近くに駆け寄ってきていたアホ女の体にも足にしがみつく馬鹿と同じように
ぐちゃぐちゃの泥がこびりついていた(そういえば昨日は雨だったか)(つか汚ぇ)
じっとしてられないガキどもは目まぐるしく俺の周りをぐるぐると駆け回り
ペットだなんだと騒いでいる
目の前の女はニコニコといまだに俺の返答を待っているようだった
だからなんで俺が…
「ざけんな。誰が四葉のクローバーなんか」
探すかよ
と言おうとして一瞬動きが止まった
いや これはむしろ
いいんじゃないか
いくら考えたところで今の非力な俺では十代目のお悩みを解決するどころか
その根源すら突き止めることができねぇ
何もできないならばせめて
小さなクローバーに思いを込めてみても
そのためにちょっとくらい馬鹿になってみても
いいんじゃないか
制服のブレザーを近くの鉄柵に頬リ投げて
シャツを肘までたくし上げる
突然やる気をみせた俺にアホ女はきょとんとしていたが
すぐにぱたぱたと草むらに戻っていった
「獄寺さんこっちはもう探したんでこっちからですよ!」
「おぅよ」
あぁ本当に なんて馬鹿なんだろう
今までの俺だったら絶対にこんなこと
ガキどもに混ざって四葉のクローバーを探すなんてことは絶対に しなかったのに
十代目に出会って俺はだいぶ変わったと思う
昔の俺は自分の見てくればかり気にして
誰かのために何かしようとか 誰かにずっと笑ってて欲しいとか
そんなこと思ったことも無かった
ただ今は本当に心の底から
他の誰でもなく 十代目に
ずっと笑ってて欲しいって
そのためには何だってしてやるって
そう思ってる
十代目
あなたのためなら
俺はいくらだって馬鹿になりたい
(これがただの忠誠心じゃないって わかってる わかってる)
額から流れ落ちた汗がたくさんのクローバーのなかに消えていく
ついさっきまでこの草むらを照らしていた太陽もすっかり姿を消してしまって
ウザイくらいに騒ぎまわっていたガキ共ももういない
頼りなのはチカチカと消えかけた電灯だけで
何やってんだ俺って心が折れそうにもなった
「ねぇな…くそっ」
だだっ広い草むらの中を這いつくばって探し回って
それでもみつからなくて
しょうがねぇまた同じとこ探しなおしてみるしかねぇなって
立ち上がって んって伸びをしたところだった
「獄寺くん?!何やってんのこんなとこで!!」
一番見られたくないとこで
一番見られたくない人に見つかってしまった
「じゅ…じゅじゅじゅ……十代目っっ?!」
あぁ今日は史上最悪の一日かもしれない
「もう真っ暗だよ。って…泥だらけじゃんどうしたの?」
「いや…あの。十代目こそどうしたんですかこんな遅くに」
「えっ?いや…えーっと。」
そう言って十代目は口ごもってしまった
虚空を彷徨う瞳は俺を捕らえてはくれなくて
左手で後ろ頭をかきながらその目を伏せてしまった
「実はさ…奥歯……」
「奥歯…?」
「虫歯できててさ、歯医者行ってたんだよ。」
「は…歯医者……」
十代目は恥ずかしそうにうつ向いたまま
つま先でその辺に転がっていた石ころを蹴飛ばしていた
え え 歯医者?ってことはまさか…
「中学生にもなって歯医者が怖いなんて恥ずかしくて言いたくなかったんだよ」
春の陽気に似合わない冷たい風が俺の横を通り過ぎていった
「そ、それで虫歯の野郎はもうぶっ飛ばしてきたんですか?」
「え。うんもう大丈夫だよ。」
力が一気に抜けてしまった
なんだ なんだ でもよかった
「それで、獄寺くんは?」
「へ?」
「何してたのこんなとこで?」
十代目に笑ってほしくて四葉のクローバーをずっと探してましたなんてそれこそ恥ずかしすぎて絶対に言いたくない
(てか言えねぇ!)
真っ暗の草むらの中
沈黙だけが渦巻いている
時間はもうだいぶ前に止まってしまったみたいだ
時間が走るように流れて早く朝になってしまえばいいのに
「や…そのですね……」
「あれ獄寺くん。ここ。」
「はい?」
「何かついてるよ」
十代目が指差した先
調度腰につけたベルトの上に
引っかかっていた
小さな 小さな クローバー
幸せの四葉のクローバー
「あっあっ…あった!!」
「はぁ?」
「あ。」
「それ探してたの?」
顔を上げればもう家に向かって歩き出している十代目が
見つかってよかったねなんて苦笑いを浮かべている
違う違う 色々と違いますよ十代目そうじゃないんです
先を歩く十代目の後を小走りで追いかけて
「こっこれ!!」
「うん?」
「十代目に…!です……」
右手に握り締めたそれを
思いっきり十代目の胸に突き出して
ぎゅっと目を瞑った
また苦しいくらいの沈黙が続く
やばい やばい
やっぱり今日は史上最悪の一日だ
耐え切れなくなって恐る恐る目を開けて十代目の顔を見る
クローバーの奴やりやがった!